第3号2016.8より

 実は恥ずかしながら、牧場の話が来るまで、安曇野という地を全く知らなかった。なんの先入観も無くこの地に住まうことになり、いざ暮らし始めて、農を営み始めて知ることがたくさんあった。二〇〇五年に当時の五町村が合併して「安曇野市」は誕生した。一般的に安曇野というと、のどかな田園風景と北アルプスの眺望というイメージがある。ぼくが農園を構えたのは、旧五町村の中の三郷村、その中の一番西の山の方にある小倉という地区だった。ここは扇状地で石が多く、水はけがいいのでりんご・なし・ももなどの果樹園が広がっている果樹地帯だ。田んぼは先人が切り拓いた準棚田ともいえる小さく段々の田はあるが、田園風景といえるほどではない。また山際なので、大きく見れば同じ山並みの北アルプスを眺めることはできない。冬は寒過ぎて野菜が育たなかったり、果樹園の近くでは農薬飛散の可能性があったりと、有機農家としてはマイナス面もあるが、果樹が栄えただけに日照時間は長く、山から染み出る水はきれいだし、一年・一日を通しての寒暖差が大きく、美味しい作物が育ちやすい、そんな土地柄であることがわかってきた。

2017年12月28日